観 菊

この日は、風が強く、気温が下がり、真っ白な霜が大地を染め、
西安の町の大通り、両側に立ち並ぶ木々はまばらで、
木々の枝々は柔らかさを失ってかたくなっている。
かららららー といった何かが砕けるような音はやまない。
路行く人々はにわかに減り、みんな寒そうに腰を曲げ首を縮め、
落ち葉は歩くにしたがって舞い飛び、わざと戯れてるように装っている。
私は、和谷・子壅・周矢ら友人を誘い、酒を持って興慶宮公園へ向かった。
菊を、観に。
公園の門は開かれていて、門番は部屋でぼんやりと茶を沸かし
雀たちは霜を掻いて食べ物を捜している。
券を買って中に入り、廊をぬけ、亭をぬけ、池をぬけ、台をぬけたが
それでもなお、あたりは静寂につつまれていて
ただ一人、清掃夫が花台で、落花や瓜子の皮、飴の包み紙を拾っていた。
船で、ひっそりと湖の後ろにある山へ向かった。
山の頂、周囲三十歩は一面の菊で、黄金色に美しく開いている。
そんな中、一株の黒い菊が、一面の菊の中央にあった。
高く、十枝に分かれ、枝毎に花を孕んでいたがまだほころびてもなくて
それゆえに、大きいのも小さいのもお椀のようだった。
私たちは船上の宴席で酒を飲んでいた。まだ山を三回も巡らないのに
不思議な香りがほとばしっているのを感じ、黒い菊を観ると、
・・・大きく花開いていた。
その姿は、小皿のようで
その色は黒く輝き
あえて手でさわることなど、できなかった
私たち四人は驚き、不思議に思った。
湖上から船で戻り、岸で出会った清掃夫が、笑いながら言った。
「ああ、この花はあんた達を待って開いたんだよ。」

 これは、癸亥の年九月二十七日の出来事

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